「模倣の殺意」に続いて本作を読んだ。その「模倣の殺意」は苦しい辻褄合わせはあるものの、本格ミステリらしいケレン味のある作品で、何より昭和後期にこのような意欲作を発表する作家が居た事に驚きを覚えた。
本作も同様に意欲作であり、ある古典に範を採っている点も同様であるが、その古典の名前を作中で女性編集者が口にしてしまう点が興醒めである。作者としては、それでも尚且つ読者を欺けるとの自信があったのだろうが、計算違いだったと思う。作品構成にしても、次々と新しい人物・証拠が登場して、その度に新たな容疑者が現われては殺されるという展開で、ミステリとしての難度を増しているかの様に見えて、単にゴチャゴチャした印象を読者に与えるだけで、作者の真の狙いがスッキリ読者に伝わらない恨みがある。アイデアに比して殺人の数が多過ぎる。意欲に燃えた作者が良く嵌る陥穽であろう。淡々と物語を綴った方が狙いが活きたと思う。
それでも上述した通り、昭和後期に意欲的な本格ミステリを書き続けた作家が居た事は慶賀の至りであり、この「殺意」シリーズがこの時代の本格ミステリの再評価のキッカケになる事を望みたい。