通常、小説にとっては描き出される「物語」こそが主であり、言葉はあくまで「物語」を創作するための手段だ。しかし「天切り松闇がたり」という小説においては、江戸前のダンディズムを体現する「言葉」こそが主である。その美しい「言葉」を語るに相応しい精神を持つ人物が、相応しい所作と振る舞いを重ねていく中で、物語の世界観が構築されていったのがこのシリーズであると言えよう。
だからこそこの小説の登場人物達は皆、一本ピンと筋が通っていて格好いい。彼らが発する言葉は常に生き様と表裏一体であり、自らの言葉を裏切る行動を取ることは、即座に自らの精神の死を意味するという覚悟が伴っているからだ。
と、まあ堅苦しく書き連ねたが、本書によるとどうやら著者はこの先も大正と昭和を行きつ戻りつしながら、新作を書き継いでいってくれるらしい。まずはひと安心といったところ。