この文庫によって初めて名前を知った著者ですが、「良い出会いがあったな〜」といい気分になりました。それは、すごく気に入った短編があったから。
全体的におもしろいアイデアのものばかりですが、『人間の友』には特にぴったりくるものを感じました。
10ページ弱で忘れられない印象を残す『人間の友』は、サナダムシの細胞の配列が実は韻を踏んだパターンになっていて、解読すると詩になるというもの。
寄生主への賛美とか、駆除される間際の嘆きとかが、ひそかに歌われているのです。寄生虫だけに、「光こそが死、闇は不死を意味する」とか・・・。
だからどうっていうこともないのに、もの言わぬ生き物もそれはそれなりに格調高く?生きているさまが描かれると、笑ってしまいます。皮肉が利いていながらも、しみじみとうれしい笑いです。
実際には人間は人間以外の世界から締め出されているけれど、こういったフィクションの冴えた擬人化がなぐさめてくれるというか。サナダムシではありますが。
でも、そんなほほえましい作品を書いた著者が、アウシュビッツの体験者とは。そうと知ると、「あなたには、ぜひ考えてほしい。わかってほしい」と訴えかける、サナダムシの一個体の最後の詩が、他とはちょっと違ったトーンを持っている理由がわかるような気がします。
ただ、その感慨も、オチまで行き届いた笑いの中にあるからこそ輝くもの。読んだ後になんとなく希望が感じられるのは、このバランス感覚のおかげかもしれません。
人にやさしいおもしろさがあふれたこの短編集は、単なる奇抜な小説とはひと味ちがって感じられるはず。おすすめです。