この世界の枠の外に存在しているような無類の建築物を設計する男、笠井泉二(かさい せんじ)。明治、大正、昭和の初めを舞台に、図抜けて異端の才能を持つこの建築家が創造した建造物と、それを頼んだ依頼主とをめぐる逸話、あるいは笠井泉二その人の奇妙な人となりを描いた話で組み立てられた作品。
「冬の陽」「鹿鳴館の絵」「ラビリンス逍遥」「製図室の夜」「天界の都」「忘れ川」の六つの短篇が、「明治十四年」の序奏と「昭和七年」のコーダをつなぐ形で、あたかも虹の架け橋を渡す感じで配置されています。建物に癒やされる登場人物の姿に目頭が熱くなった「冬の陽」と「忘れ川」、エッシャーの『相対性』の絵が脳裏に浮かんだ「ラビリンス逍遥」の三篇に、格別、心惹かれましたね。素敵な話だったなあ。
『第20回 日本ファンタジーノベル大賞』を射止めた本作品。1962年生まれの著者のデビュー作とのことですが、静かな気品をたたえた文章の佇まいといい、すっと立ち上がってくるイメージ喚起力といい、これが新人の作とは到底思えないレベルに達していたところ。正直、驚かされました。
不思議な魔法に引き込まれていくかのような作品の雰囲気。幻想小説であり、ファンタジーでもある小説が奏でる調べの美しさ。本の中に入って至福の数時間を過ごすことができた! この作品に出会えたことに感謝です。