著者であるダン・ブラウンの緻密な調査に基づくストーリー作りの巧みさに脱帽です。
科学と宗教とは手を結び合えるものなのか。それとも水と油のように決して混じり合えないものなのか。はたまた科学と宗教とは同じ宇宙の真理を別の観点から追求しているのか。
この主題を中心に、謎解きとアクションがふんだんに織り込まれた悲劇性と意外性の強い緊迫したストーリーが展開され、全編一気呵成に読んでしまいました。
基本的に宗教が自らの自己保身のために行ってきた数多くの罪悪が糾弾されますが、しかしながら一方的に宗教を否定するほど単純な内容ではありません。思うに、宇宙の真理の探究は科学にまかせ、宗教は人を罰したり救ったりするような人格神信仰を捨て、純粋に人が人としていかに生くべきかの指針を示す倫理観や道徳観など説くべく生まれ変わる必要があるでしょう。
本作はもちろんフィクションですが、その記述の多くが真実に基づいています。例えば〈インターネットのウェブと言う概念はセルンで発明され素粒子物理学者の間で培われた〉は事実です。ただし、セルンで反物質を作り出すことはできますが、それを大量に安定して保存することは現在の技術では不可能です。その他、事実と創作が見事なまでに組み合わされており、その融合も見事です。
巻頭の芸術作品の写真やローマとヴァチカン市国の地図も良い参考になります。
ただ訳者に一言。〈Particle Physics〉は、〈粒子物理学〉ではなく、正しく〈素粒子物理学〉と訳してもらいたかったですね。