グロテスクホラーを得意とする著者のSF短編集。表紙はライトノベル風だが挿絵はないので、気になる人はカバーを外せば問題なく読める。
全体的に理論は素晴らしいものがあるのだが、起承転結があやふやだったり。人物造形が固まっていなかったり、結末が唐突だったり予想しやすいかで、物語としては残念なところも多い。
8編の短編が収められているが、どうも前半の物はつまらなく、後半の物は面白く思える。最初の数編を読んで嫌になってきても、後半から読んでみるのを薦める。
以下、各編のネタバレを抑えた感想。
『天体の回転について』
本書で唯一萌え要素のようなものがあるが、刺身のツマ程度なので気にする必要はない。
作中で展開される科学理論はわかりやすく興味深いが、物語性やキャラクターは極めて薄い。
『灰色の車輪』
本書収録作の中で一番駄目。正しい理論が物語を引き立てず、展開は陳腐の一言。
ロボット三原則を引用しているのに、内容は旧時代のフランケンシュタイン的ロボット物へ逆戻りしてる。アシモフに対する侮辱に思える。
『あの日』
SFコメディとして秀逸。展開と結末は唐突だが気にならないレベル。
これを読まなかったら危うく本書を投げ捨ててるところだった。
『性交体験者』
ありがちなグロテスクSF。すぐにオチが読める。
『銀の舟』
ここからがらりと変わって良作ぞろいになる。
ファーストコンタクト物として見事な出来。展開にうならされる。
『三〇〇万』
これもファーストコンタクト物。異星人とのギャップが巧みに描かれている。
某作品のパロディとしてニヤリとさせてくれるのも上手い。
『盗まれた昨日』
同一性をテーマにした作品。科学が物語をしっかり支えており、着目点がいい。
『時空争奪』
「川は河口から始まる」という一般常識と違った知識が、大きなスケールの物語に発展する展開が素晴らしい。
パロディとしても楽しめる。本書で一番のお勧め。