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そして。追いすがる誰かを嘲笑いながら振り払い今日も、去り行くかのような夕闇を背に、「彼」は降り立った。最後に会ったのはいつだったか。思い出せないような立派な牡鹿。
「やめておくれ。」すがる訳でなく。優しく厳かに紡がれたことば。「彼」は気付いていた。岩陰に潜む、人の子が作り出した冷たい鉛の塊りが、自分の眉間を狙っている事を。
今日に限ってやけに手が振るえ、旨く定まらない猟銃を持ち直そうとしていた男は、悲しげにも聞こえるその声に気付かされた。奴は、この鹿は、鹿笛に誘われずして此処に来た。きっと其処には何か・・・
・・。 「代わりに」 牡鹿は深い瞳を揺らしただろうか?直視されているはずなのに逸らせないままなのに、男には底まで読み取れない。まま。「代わりに、鹿の市に連れて行ってあげよう。」牡鹿の言葉に引き寄せられて、その背に跨ったのだった。
初めて行く、鹿の店員だけが出店を連ねる鹿だけの市。
珠敷きの店の暈の中、たった一人の人間。
無事家路にも着き、その夢のような体験を娘たちに語って聞かす男。
二、三何かを尋ね、去っていった牡鹿。
鹿の市の華やかさに憧れ夢馳せるは娘と娘。そして、彼を案じるも一人。娘。
しかし、鹿と一家との不思議な交流は ここから、 或いはもっと
昔から? 続いてゆくのである・・・
「出会うことを恐れるなら、きっともう昔にすませてしまっていた。
だからきっともういまは、ただ会うことを望んでいる・・」
葡萄酒、お祭り、首飾り。絹の反物、ぴかぴか暖かいランプは半端に誰かの何かを守って。安房直子の不思議で、暖かいけれど胸を挿す。そんな独特の感覚を一番感じられる物語は、此処にあるのではないでしょうか?そう思わせる、私が世界で一等好きな本です。牡鹿の求めたものは何だったのか。幸せは何処から感じ始めましたか?安房さんワールド大炸裂!読めば其処が都です!!この安心感をあなたにも・・・、欲しい人から、とどきますよう・・・祈りは鹿に、伝えときます。
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