本書は、野口氏が震災後の日本経済の復興シナリオを純粋な経済学的見地から冷静に述べたものだ。震災から2カ月以上が経過し、評論家、学者等が各自見解を述べているが、多くは感情的な政権、東電批判、極端な原発廃止論だ。
氏の主張は、感情的で不毛な論争には耳を貸さず、理論的に導出される策を地道に打つ以外にないというものだ。奇抜な「対策」はいつの時代でも成立しない。今回の震災対策は、国家財政、経済構造、企業のビジネスモデルを徹底的に見直す契機とし、マクロ的視点で考え、短期目標、長期目標の政策を互いに整合性を保持した中で適時打ち出していかなくてはならないと説いている。
その中で野口氏は、短期的には、価格メカニズムによる電力需要のピーク抑制。増税、対外資産売却などによる財源調達。円高容認、輸入増による供給力不足のヘッジ。長期的には日本を金融立国、資産大国として再生させ、企業は1ドル50円でも生き残れるようなビジネスモデルを構築しなくてはならないと説いている。
これは単なる理想論ではない。震災前から日本は既に緊急事態であり、国民一人当たりのGNP、企業利益などは低下し、国家財政に至っては、実質的に破綻しているからだ。今回の震災によって、この緊急事態対策の実行時期が大きく前倒しされたのだ。
本書が説得力に富むのは、従来の主張を変えることなく、既存の経済学理論を駆使し、復興対策を論じている点だ。野口氏の著作を踏まえたうえで本書に接すると、経済政策の基本的考え方について「そうだったのか」と改めて思い知る。感情的論議は今後も後を絶たないだろうが、日本復興のための短期、長期戦略を骨太に練り、素早く実行に移し、被災した方々、日本人全体、そして世界を一刻も早く安心させるのが、日本の政治家の大きな役割であろう。日本の政治家が示すべきリーダーシップの方向性について、本書から学べる点は非常に多いと思う。