中国で活躍する日本人俳優、矢野浩二さん41歳の自伝。
ご自身の喜びや落胆、驚きと失意、成功と失敗、
そして葛藤が、率直な言葉で惜しげも無く書かれている。
新しい転機が訪れる前の煩悶は、「これでいいのか?」と
自分に問い続けるすべての人に共感されるに違いない。
中国通の人が書いた中国論はたくさんあるし、
また、この本は中国論でも中国人論でもない。
けれども、実際に中国についてほとんど知らない矢野さんが、
俳優という一本の軸に沿って経験していく中国は、
気張らない文体なのだがまさに圧巻だ。
中国礼賛でも中国批判でもない、自慢でもない、
生身の人間の正直な感想だけが語ることのできる「事実」がそこにある。
事実は雄弁だ。これが今の中国の空気感だ。
繰り返すが、中国論ではない。自伝だ。
自伝なのだが、いや、自伝だからこそ、
一人の男が俳優としての転機を求めて大陸に渡り、
そこから日本人俳優としてのアイデンティティに目覚める過程が、
中国の特徴をも浮き彫りにしている。
周りの人たちへの感謝を基盤とした努力もさわやかだ。
おっと、説教調なところはないから安心してくれ、そこの若者よ。
分野こそ違え、異国で似たような立場に置かれている自分には、
自信のこととして納得しつつ読める本であった。
熱烈推荐!