1947年生まれの写真家・百々俊二さんが、自分の記憶にある大阪のイメージを大切にして撮った写真集です。
モノクロですし、被写体の風景がとても懐かしいものばかりでしたので、昭和の大阪を写し込んだ写真集だとばかり思っていました。ただ、若い人々の服装が今のファッションでしたから、不思議だと思っていたら、撮影地一覧を見ますと2007年から2010年にかけて撮られた作品ばかりなのにまず驚きました。つまり「今の大阪」の時代を切り取ったはずなのに、写し込まれているのはどこか懐かしい「昔の大阪」ばかりでしたから。
勿論、意識して被写体を選び、意図して構図とモデルを決めたベストショットは見る者に郷愁を与えながらも、ごった煮的で人間味あふれる生活臭が漂う大阪の姿を提示した写真集でもありました。
ただ、百々さんの温かい眼差しは被写体となった古い建物を慈しむように撮り、モデルとなった街の人々に警戒心を与えず、自然な表情を浮かび上がらせるようなコミュニケーションを感じ取りました。
鶴橋の国際マーケット、千日前の裏通り、道頓堀の巨大看板、京橋のガード下の飲み屋街、阪急中津駅改札下の薄暗い光景、百々さんが子供の頃過ごした関目とすぐ近くの千林商店街、十三、天王寺、山王、天下茶屋、曽根崎、ジャンジャン横町など、大阪をイメージする際にステレオタイプ的に例えられる大阪の街を撮っていますが、地元に対する温かい視線とプロのさめた感覚が、これらの写真を芸術作品へと昇華させたようにも思えました。
百々俊二さんは、九州産業大学写真学科卒業し、1970から写真専門学校の教員をし、1998年にビジュアルアーツ専門学校・大阪の学校長だったという写真家です。
当方も敬愛する阪大総長の鷲田清一「場所の記憶を明け渡す」というエッセイが所収してありました。これも一読に値する文でしたね。
巻末に、大きな蛇腹と画面をもつ8×10のカメラを据えている百々さんの眼差しは優しさと厳しさの両方がにじみ出ているようでした。