『大阪古地図むかし案内』という書名の通りの内容ですが、もっと取っつきやすく、知的好奇心を満たしてくれる歴史啓蒙書といった風情が漂っています。読み解き大坂大絵図という副題の通り、江戸時代の絵図に描かれた大阪の姿を具体的に説明して、その場所の由来や成り立ちがわかるエピソードを散りばめ、誰にも分かりやすく書き記した筆者の力量に感服しました。
筆者の本渡章さんは作家で、第三回パスカル短篇文学新人賞優秀賞受賞をされています。日本近世史の研究者でなく作家であることから、読者を意識した記述が施してあり、江戸時代の大坂の街の姿を生き生きと浮かび上がらせてくれました。
「古地図は文字のない本である」とは、けだし名言でした。
大坂の地図は東が上なのですね。大坂城はアイコン化され、治安上詳しくは描かれなかったようで、非公開でした。四天王寺さんが大きく描かれていますが、そのデフォルメぶりも今の地図と比較すると面白く感じられます。
中之島に並ぶ蔵屋敷の姿もしっかりと描かれています。またその大名家と蔵元や掛屋といった商人との関係も52ページに詳しく述べられていました。この中之島は有名な淀屋によって開かれた場所だったわけです。堂島の米市、津村別院・難波別院、天神橋、天満橋、難波橋など、大坂を代表する場所の成り立ちもよく理解できました。
四ツ橋には4つの橋がかかり、その西北側には新町遊郭が作られました。京都の島原、江戸の吉原と並ぶ3大遊郭があったわけで、当時は大坂のはずれだったからここに作られました。今は町中で面影は全くありません。島の内は文字通り島の中にありました。それだけ大坂は川や堀が多くあり、八百八橋と言われましたが実際は最盛期で二百ほどの数でしたが、それでも多いのには違いありません。古地図も橋だらけでした。
曽根崎、船場、千日前、道頓堀、天満、生玉社や高津宮など、現代の大阪の街を構成するそれらの有名な場所の来歴はきっと面白く感じられることでしょう。
後半は、大坂郊外や堺の町も取り上げ、古地図を読み解く醍醐味をしっかりと述べてありました。付録として、「折込み古地図・貞享四年新撰増補大坂大絵図」がありますので、古地図の内容や雰囲気は具体的につかめます。
第1章 元禄の古地図を読み解く(入門編 古地図の見方)、読み解き実践編 元禄十二年新撰増補大坂大絵図から見えるもの(城と武家屋敷、蔵屋敷と米市 新地、船場とその道と川、島之内・道頓堀・千日前、天満 天満宮・市場、西船場、寺町・四天王寺、水都の川)
第2章 古地図読みくらべ(ふたたび入門編 古地図)、その表現の多様性 読み解き応用編 時代を語る五つの古地図(浪華往古図、明暦三年新板大坂之図、天保新改摂州大阪全図、摂州平野大絵図、文久三年改正堺大絵図)