還暦を前にローンで首がまわらなくなった予備校講師の著者。偶然手にした本をきっかけに2006年、せどり稼業に乗り出します。本書はその後の2年間で1700万円の売り上げをたたき出すまでに至った体験記です。
著者は若い頃から大変な読書家であったことを強くうかがわせる巧みな文章を綴っています。高い教養、品の良いユーモアのセンス、リズム感あふれる言語運用能力、顧客に対する敬意と謙虚の気持ち、そうしたものが著者の文章に満ち溢れていて、それが大変好ましいものに感じられます。
本書を手に取る若い読者の何人かは、せどりという古書の転売作業で年間数百万円の収入があるというこの体験談を読んで、同じ道を歩もうと考えるかもしれません。しかし著者はそうした若者たちに対しては別の道を目指すべきであると諭し、その理由を説明しています。著者自身もやむにやまれぬ経済的事情から始めたものであり、自らの商売にどこか胸を張ることを憚る気持ちがあるようです。
しかし、そもそもインターネットすら満足に使いこなせていなかった著者が、ローン地獄から脱却するためというがけっぷちの状態から、携帯電話を手に入れ、マーケットプレイスに出品されている古書の価格が一括表示できる無料ツールを駆使し、“売れる”古書をブックオフの105円棚から選り抜き、さらには他県のブックオフを車で経巡るという生活をひとつひとつ設計していくのです。その道程は、ひとりの人間のたくましい成長の記録として大変興味深く読むことができます。いくつになっても、そしてたとえそれが金儲けという作業であっても、進歩前進する人生を送れるというのはとても好ましいものだと思います。
ですから、たとえ若者に勧められない生業であったとしても、著者自身は自分の歩んできた道に対して堂々と胸を張ってかまわないと、私は強く思うのです。