他の方のレビューに「お勉強」というコメントがいくつか見られるが、私も同様な印象を受けた。海外のポピュラー音楽の書籍をいくつか読み、そこから適当なところをそのまま纏めただけ、という印象である
無論、うまくまとめ、適切な資料を提示し、著者自身の視点などを適宜付加してくれれば良い書籍となり得るだろう。しかし、本書はそれに成功しているとは到底言いがたい。
ひとつの理由としては、「〜批判を受けた」とか「〜とみなされていた」などという言葉が大変多いが、それを裏付けるような一次資料が提示されないことにある。歌詞の引用などもほとんどないといっていい。おそらく著者自身一次資料にはほとんど当たっていないのだろう。何年にだれがこうした、というような事柄の列記が多く、非常に無味乾燥なものとなっている。
もうひとつの理由としては著者の知識不足である。他の方も指摘しているように著者自身のポピュラー音楽に関する知識には疑問符がつく。「ゲイリー・グリッター」といえばグラムロックの大御所としてロックファンなら知っていて当然の有名人であるが(少なくとも名前くらいは聞いたことがあるだろう)、ガリー・グリッターと表記している。どうも著者はご存じないようである。他にも他の方の指摘にあるように、人名の慣用的なカタカナ表記を用いてない場合が非常に多い。これは原語での発音に近づける為に敢えてそうした、というより、単に著者の知識不足に拠るものであろう。他にもニルヴァーナの『ネヴァーマインド』を『ネヴァー・マインド』と表記するなど細かな間違いは枚挙に暇が無い。
疑問符がつくのはポピュラー音楽に関する知識だけではない。著者は「アジ・プロップ」などという不思議な言葉も使っているが、agitpropはアジプロという風にカタカナでは表記するのが普通である。「アジプロ」は広辞苑他の辞書にも当然載っている語である。ここでも著者は「アジ・プロップ」を敢えて使ったのではなく、単にアジプロという語を知らなかったようにしか思われない。
ストレートに言ってしまえば、無味乾燥でつまらない本である。同種のテーマの新書として、岩波新書に中村とうよう『ポピュラー音楽の世紀』があり、これは良書であるのでそちらを読むことをオススメする。