主人公は、石高四千石の旗本、津軽采女(うぬめ)そして、芭蕉の弟子其角、絵師英一蝶これに堂々とした大人振りの紀伊国屋文左衛門、吉良上野介、御徒侍の阿久沢弥太夫らが絡む。このお膳立ては秀逸である。
これに江戸湾の四季折々の魚が色を添える。
釣技に迫る謎解きにも興奮がある。
竿も鉤も季節も潮の動きもみんな違う。釣法は、人それぞれであってそれぞれが工夫すればよい。教えることは出来ない。とは至言である。
将軍家の権力争い、五代将軍綱吉の「住みにくい世の中」となったと云われている「生類憐令」(お触れの総称)には、「きりぎりす松虫玉虫之類、慰めにも飼い申すまじ」まである。但し、その適用はあいまいであったらしい。
これに対する天下の副将軍水戸光圀の腹の据わった態度も描かれている。
武士の処世や、琵琶湖の鮒寿司も出て来るなど酒と肴もいい脇役となっている。
また、最強の釣敵がふたり並んで竿を出すような間柄になっていた描写があるが人生の奥行を感じさせる。
そして、采女の「色んなものが自分から去った」。
妻が死んだ、城勤めも終わった。だが、釣りが残った。
何故、好むかはその理由を問い詰めてもわからない。何故生きるかのようなものである。
上巻は、釣り船禁止のお触れが出たところまでとなっている。