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大正という年号に含まれる時期は、明治・昭和という長期間続いた年号の狭間にあるだけに、軽く考えられてしまう傾向がある。しかしこの本は、「人口」という視点から、大正期がいかに激動の時代であったかということを検証していく。本籍人口と現住人口・男女比率・死亡率……など、基礎的なデータを考察することで、「大正」という時代に対してなんとなく抱いていたイメージが見事に訂正されてしまった。ただ、後書きで書かれているように、筆者ご自身は大正期研究の専門家というわけではなく、本文には他研究からの引用が占める割合も多い。それでも、筆者の問題意識がそうさせるのだろうが、大正期に限らない人口学自体への興味も広げてくれる点でお得な一冊である。
大正時代の識字率や読書層の状況、平時で最も多くの人が亡くなった年とその理由、1月生まれと3月生まれが突出して高い事情、ねえやは普通15ではヨメにいかなかったこと。兵隊さんは戦死よりも戦病死(インフルエンザ)が多かったこと。雑学的にとてもおもしろい。
また、統計資料の精査の方法、歴史資料として用いる場合の限界など、丁寧にフォローされており、参考になる。
難をいうなら、大正期の世相の説明と統計上の分析記述の間に、質的に大きな違いがあることだ。正直、社会の概観を示した部分は、他の部分と比較して文章に硬さがあり、内容も深みに欠ける。もちろん、新書一冊ですべてを語ることは不可能なのだが、この点で本書が全体としてばらついた印象になってしまった。
もう一点、人口学の専門家には畑違いかもしれないが、なぜ国家は統計を取りたがるのか、人口や年齢、家族状況だけでなくそれ以上のこまごまとしたデータを集める意味は何なのかを、概観してもらえればおもしろかったかもしれない。
その特徴というのをいくつかあげると、
一、明治末に導入を検討されていた「国勢調査」が実施されはじめた。また、都道府県別の統計データもぼちぼち出そろいはじめた。
二、第一次世界大戦の余波を受け、日本全体が好景気に。電気やガスなどの社会的なインフラが急速に整い、特に都市部での衛生状態が飛躍的に向上した。
三、「二」と関連して、急速に増大した需要をまかなうため、寄宿舎に工員や女工を集め、交代制で工場に勤務させる制度が定着。これには、肺病などの伝染病の温床となる、などの負の側面もあった。
四、世界的に猛威をふるい、世界大戦の戦死者以上の被害を出した「スペイン・インフルエンザ」の流行、関東大震災、などの天災などによる、人口と出生率の急激な減少。
五、日本が樺太、台湾などの「外地」を獲得し、当時・当地の人口数が、不完全な統計ではあっても、初めて計測された。
六、義務教育の普及により、若い世代の識字率はほぼ百パーセントに。娯楽雑誌や教養書などが売れはじめる。「会社員」という「身分」が確立したのも、この頃。
などなどがあり、いろいろな意味で「現代の日本」の原型ができた「大正」という時代の日本は、世界史的な視野でみてもかなり面白い、といって語弊があるなら、興味深い時代だったんだなぁ、という感慨を改めて持ちました。
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