最近再評価が進む大平正芳元総理の生涯を追い、その先に保守政治とは何かを見つけようという著者の意欲作。素直に評価できるいい本でした。
大平首相時代は私が小学生のころ。とにかく「アーウー」のモノマネをしたことと突然亡くなってしまったことしか印象にない総理大臣でした。ところがその素顔は敬虔なクリスチャンであり、また、理路整然とした政治家であったことが本書でよく分かります。
本書中盤は大平氏の評伝というよりも戦後自民党史、もしくは総理大臣列伝の様相を呈していますが、青年期と首相時代の章では大平氏の理念と行動が詳細に解説されています。
田中角栄と盟友関係にあったこともあってか政治とカネの問題にはあまり手を打たなかった印象があり、その点では課題を残したのでしょうが、70年代後半にあって、「経済から文化への転換」を標榜した点、そして何よりも、在野の若手学者などを起用し9つもの研究会を立ち上げ「時の政府の方針に沿わなくてもいいから21世紀に向けた理念を作り上げよ」と指示した先見性。また、「首相にはリーダーシップはいらない。コンダクターの役割でいい」との言葉。これは彼が国民の力を信用していたからにほかならない発言だと思います。
本書は多少功績のほうを持ち上げすぎの感はありますが、「鈍牛」と称された大平氏の再評価をなす力作と評価します。