あまりにも有名な棋士である羽生さんが、「大局観」という題名で彼のいろいろな考えを綴った本。
本を読んでいるというより、羽生さんと飲み屋で話しているかのような、わかりやすい語り口。取り上げられているトピックも、感情のコントロール、リスクをとること、集中力、毎日の練習の効果、負け方、目標設定、直感、確率、運、スターの資質、将棋とチェスの比較等、多岐にわたる。また、例として出てくる人も、歴代の棋士はもちろん、勝間和代、長嶋茂雄、松下幸之助、手塚治虫など、幅広く、羽生さんの見識や交流の広さを垣間見れる。
しかし、本書には、大局観とは何か、またどのように身に着けるのか、についての明確な答えは無い。前作の「決断力」と比べると、メッセージ性が少なく、「大局観」の周りの要素について、著者の考えをバラバラと述べているだけ、という印象がある。また、「決断力」と比べて、将棋に関する事例が多いとも感じる。
羽生さんの考えに触れたい人や棋界に興味のある方にはお勧めするが、前作の「決断力」のような明快さを求めると、肩透かしを食うかもしれない。
それでも、一番印象的だったのは、「大局観」とは直接関係ないが、著者が最後に述べている「私はこれまで、何と闘うという目標を立ててやってきていない。(中略)常に無計画、他力志向である。突き詰めると、結論なし、となる。」という文脈。これは外資系のトップのインタビュー集である「外資系トップの仕事力」で、名だたる外資系のトップが「長期の目標をたてずに、目の前の仕事を一生懸命やってきたら、今がある」という部分に通じると感じた。業界は違っても、目の前の仕事や課題から逃げずに、それを全力で全うして結果を出し続けて行くことが大切、と再認識できた。