本書は大きく3つの部分から構成される。
第一に書名にもなっている年収120万円時代が迫っているという事実を明らかにする(第1〜3章)。サブプライム・ショックに端を発した金融危機の影響が大きいが、日本社会が格差を助長・固定化する方向に進んできた結果である。最近株価が底を打った感があるが、経済危機の要因は解消されていないことが理解できる。
第二に経済危機を打破するための政策提言である(第4章)。著者の提言は共感できる内容が多いが、それ以上に衝撃的であったのは現在の日本政府が著者の提言の正反対の方針を採っていることである。日本政府の政策には大企業の負担を軽くし、貧しい人々から増税しようとする傾向が見られる。日本社会の格差が深刻化するのも当然である。
第三に個人レベルで年収120万円時代を生き抜くための知恵を紹介する(第5〜6章)。ここが本書の肝になる。資産運用では伝統的な運用方法(預貯金、株式、金)への評価が高い。一方、外貨預金や投資信託、不動産投資信託(REIT)のような比較的新しい運用方法には辛口である。
特に不動産投信は「冬の時代」と表現する(169ページ)。「メンテナンス費用や固定資産税、さらには値下がりによる含み損を考えれば、資産運用どころか資産を目減りさせる元凶になりかねません」と不動産を切り捨てるためである(171ページ)。これは不利益事実を隠してだまし売りされた新築マンションの売買契約を取り消した私にとって大いに納得でき、励まされる言葉である(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。
著者は資産を増やすだけでなく、最低年収で楽しく暮らすための知恵を身につけるべきと主張する。それは高額な物の消費をステータスとする見栄を捨てることである。著者は「「負け組」になる不安を怯えながら毎日走り回るような生活を続けるのか、あるいは「勝ち組」になるという幻想を捨てて、自由な時間を余裕を持って楽しめる生活を求めていくのか」と問う(203ページ)。弱肉強食のアングロサクソン型資本主義の行き詰まりは明らかだが、それを変えていくのは人々の消費行動であると実感した。