この本に書かれているのは、大正時代から昭和初期にかけての「消費」という行為に関してである。
「趣味」というのは、お金がかかる。また時間も必要だ。そうした生活の余裕が大正時代から人々のなかに浸透してきた。
旅行やスキーにしろ、自動車にしろ、飛行機(や模型飛行機)にしろ、ギターや音楽、蓄音機にしろ、天体観測やラジオ、ロボットにしろ、顕微鏡や天気予報にしろ、何しろ暇がないとできないものばかりである。
そうした生活の楽しみ方を、作家たちの小説やエッセイのなかから浮き彫りにしていったのだ。
それと同時に、今まであまり取り上げれなかった大正時代の随筆家たちを取り上げて、その人物から、社会や生活を見させているのが興味深い。
たとえば、旅行随筆家の松川二郎である。彼は、元読売新聞の記者だったらしいが、その後、大正時代を代表する風俗エッセイストになった。
彼の眼を通した社会のさまざまな風俗が随所にちりばめられている。また、著名なところでは、寺田寅彦である。彼のエッセイから大正時代の楽しいところが浮かんでくる。
資料を駆使した展開になっているので、その内容には説得力があり、今まで知られていなかった大正時代の違った側面が見えている。
小説家の長田幹彦は論ぜられることが少ないが、この本では実際、通俗作家の長田幹彦論にもなっている。さらに久米正雄も通俗的な面もよくわかる。
その他、上司小剣、野村胡堂、室生犀星、小酒井不木、正木不如丘、森下雨村、角田喜久雄など、たくさんの作家たちが登場している。皆、大正時代を楽しく生きていたのがうれしい。
図版もたくさん使用されており、とくに『写真報知』のものが多いので気になった。著者が持っているのだろうか。
とにかく、今までとは違った大正時代を見たい人にはお勧めの一冊である。