待望の新章開幕です。ナチス統治下に生きるベック公を主人公にすえ、現代人にもなじみある第二次世界大戦期の世界観から多元宇宙へとわけ入っていくことで、ムアコックの宇宙がにわかに普遍性を帯びることが本巻の醍醐味でしょう。
<法>と<混沌>、黒の剣とルーンの杖、神々と仙境の生物たちも健在で、絢爛たる異世界奇譚も満喫できます。
古くからのファンには、かつての登場人物たちをただいまのムアコックがどのように解釈しているのか、うかがい知る余得もあります。主人公ベック公は『堕ちた天使』(集英社刊)のベック伯の末裔であり、聖杯にまつわる言及に懐かしさを覚えます。<紅衣の公子>コルムから知っている向きには、<呪われた公子>ゲイナーの原罪は感慨深いものがあるでしょう。
前巻までと比して好みは分かれそうですが、娘を前にしたエルリックの困惑や、ベック公の現代的価値観によるエルリック評など、楽しみどころは詰まっています。