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表紙から受けた印象は間違いなかった。この著者に絶えてなかった、明るさが、華が直感されたのだ。今は人気がないかも知れないが、かって英国にライダー・ハガードという最高の伝奇作者が存在した。自分は、紀和鏡に期待した。夫君の中上が達成したように、この国のみならず、世界文学の水準に達する伝奇作品が生まれるかも知れないと。
予想は見事に裏切られた。夢熊野は、日本大衆文学の伝統を全面的に引き受けた、堂々たる歴史物語であった。表紙にうかがわれた華は、当然この間の事情を告げていたのである。これは、自分の余計な期待を黙殺した、日本伝統文学の傑作である。少女が、男の勝手な願望を裏切りつづけて成熟していく様には、一種痛快な理想が顕現している。紀和鏡は、達成したのである。なかなか理解はされないであろうが、それは丁度この作品の隠れたテーマでもある、熊野修験の、優に千年を越える営為が理解されないのと通底した現象なのでもあるが、読む人は感じざるを得ないだろう。
かって中上健次は土方作家と勘違いされた。ついで、誤って大家と思われた。しかし、彼の本領は、すべてに洞察の行き届いた、言わば教養のある姉さんのような、そしてこの国に偏在しているかのような、気の良いおばさんのような、どこまでも繊細な知性の結晶にあったのである。そういう意味で、彼の自伝は『鳳仙花』なのである。そして、この紀和鏡の夢熊野は、どのように齢を重ねようとも、頑として成熟を拒む、少女の叡智の顕現としての自叙伝なのである。これは女流の『鳳仙花』である。
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