「幸せは皆ひと色だけど、不幸せは一つ一つ、違った色をしているそうです。私たちが芸者になった理由も、一人一人、違います」
このドラマの本質は、第三話の冒頭で語られる、このモノローグに凝縮されている。
山陰の田舎にある寂れた温泉街。そこで一人置屋を営む夢千代の元に、ある日川崎から一人の刑事がやってくる。かつての同僚の生駒が、人を殺したというのだ。
生駒がきっと戻ってくると確信し、張り込みを続ける刑事の出現により、温泉街に生きる人々の悲しい秘密がゆっくりと呼び覚まされていく。
物語を引っ張るのは「彼女は本当に人を殺したのか」というサスペンスだが、それはあくまで作品を動かす為の一要素に過ぎない。
田舎町を池の水面とするならば、かつての同僚を追う刑事は、突!如池に投げ込まれた小石である。小石によってゆっくりと水面に広がっていく一瞬の揺らぎを、本作は繊細な優しさをもって、しっとりと描き出す。それはまさに「ドラマ・人間模様」の名を冠するに相応しい。
現実の世界に「悪人」がいないのと同じように、本作にもいわゆる「悪人」は登場しない。そこにあるのは、痛みを胸に秘めつつ、お互いを道連れにしてひっそりと支え合っていく、市井の人々の姿である。脚本を手がけた早坂暁は、必死に些細な幸せを掴もうとした挙げ句、奈落の底へ転がり落ちてしまった善人達の姿を、慈しみを持って描き出している。
本作はこの国に息づく(若しくは息づいていた)人と人との目に見えない絆を、鋭い洞察力を持って描いた力作であり、放送史上に残る不世出の傑作と言えよう。!
作品のスコアを手がけた武満徹の手腕も見事。しっとりとした旋律が、作品の情緒を醸し出している。