古内東子の通算17作目、巷の評判を聞いてから購入を決めようとネット・雑誌の記事類を読んだところその内容は賛否両論。実際
聴いた印象としては決して悪くはない、しかし若干思うところも。絶賛レビュー揃いの中気が引けるが率直な感想を述べる。
発売が春先となることを意識したのか、本作は普段よりも別れと新たな歩み出しを意識した言葉が目立つ。恒例のブックレット内の
直筆メッセージにそれとなく滲ませるように、独自のスタンスを貫く彼女にも昨年の震災の影が確実に感じられる。ここに刻まれた切
なくも温かい物語は、卒業・引越し等この季節特有のセンチメンタルな別れを経験する多くの人々の心に届くのでは。
本作では近年の彼女の片腕と言える河野伸氏がメインプロデュースに復帰。前作「透明」はセルフ・プロデュース作でアレンジが若
干薄味等の課題を残したが、本作に関してはサウンドの厚みとしてはほぼ申し分無く、細やかな打ち込み・ストリングス等を加えた生
音中心の贅沢なアレンジは抜群の安定感がある。
一方古内東子ワールドとして確立され切ったAOR風サウンドはそつなく纏まり過ぎて耳をすり抜けてしまうきらいもあり、次作辺りで
外部スタッフを招き新しい風を入れることも必要かもしれない。個人的にはオルガンと軽やかなアコギの組合せが心地良い「ずっと探
してた」辺りが新鮮に響く。
また今回過去の傑作群と比べ素晴らしいメロディに出会った際感じる高揚感が少なかった。もしかしたら楽曲の練り込みが足りない
のかもしれない。この感覚は前作辺りから感じるもので彼女のパワーダウンが気になる。
レコード会社との契約の問題もあろうが、彼女の創作エネルギーが1年1枚のハイ・ペースにちょっと追いついていない感じがする。も
っとリリース間隔を空けじっくり制作期間を用意した上で、より練られたメロディに満ちた傑作を期待したいのが本音だ。
ライヴ収録のDisc2では過去の名曲を含め河野氏のキーボードとピアノ弾き語りでシンプルに聴かせるが、終始何処か震えている
様に聴こえるボーカルの不安定さが気になる。余程熱心なファン以外はライヴCD抜きのVerで十分だと思う。
以上多々苦言を述べたが、巷に溢れるインスタント・ポップスよりも遥かに丁.寧に創られた佳作であるのは確かだ。彼女の場合過去
に多くの名曲・名盤を産んできた故為要求が高くなってしまうのだが、時には休養を挟みながら無理せず息の長い活動を続けて欲しい。