長門裕之演じる主人公の佇まいは、木村先生の分身と言えるほどに良く似ています。
映画美術の重鎮で専門学校の学院長という経歴も同じで、そこから鑑みるに、恐らくはほぼ先生ご自身の実体験を基にした映画です。
物語は現在と過去を行きつ戻りつ、痴呆症や統合失調症、戦争など様々なエピソードを孕んでいますが、これらに共通するテーマは“死”そのものでしょう。
軽やかなタイトルに対し、先生の生きてきた時代を反映する非常に重い内容です。
特に戦争で散っていった数多くの若者に触れた主人公の「何故戦争なんかしたんだ・・・!!」というストレート過ぎる台詞は、まさに戦争を経験した人としての、理屈を超えた心の叫びとして降り掛かってきました。
しかしこれだけ重い内容にも関わらず、グイグイと人を惹き付ける映像美は流石に秀逸。
清順氏ら戦後の映像作家と共に培ってきた鮮烈な美術表現はもちろんのこと、キャメラワークや色彩感覚、音楽の使い方など、そこかしこに90歳とは思えない瑞々しい感性が光っています。
スクリーンの反対側から、活き活きとメガホンを取る木村先生が想像できます。
登場人物は何かしら物を作ったり描いたりする人が多いのですが、まさに“表現”こそ先生にとって“死”という重い現実を乗り越え未来を作る最大の武器なのでしょうか。
精神を病んでしまった学生が、ずっと先生と続けていた文通を大切にしていたというエピソードには思わず涙。
この青年の気持ちが痛いほどよく分かるのです。
生前の木村先生は、僕ら若き映画人にご自身の表現技法の全てを伝える事に、とても熱心でした。
高齢にも関わらず、今まで手掛けた200本を超える作品の1つ1つの全てを詳細に覚えており、最後まで極めてロジカルな現場感覚を持っていた方でした。
それでいて大御所ぶった振る舞いや若者の感性を否定するような事もなく、全て受け入れ、実直かつ真摯に1人1人の教え子に接してくれる方でした。
大学時代、僕にとって一番尊敬できる人であり、いつまででも一緒に話していたい方でした。
願わくば、もっともっと先生の作品が観たかった。
合掌。