思想は、その時代の科学に影響をもたらす。もちろん、科学者個人の哲学は、科学研究に反映する。アインシュタインしかり、シュレディンガーしかり、湯川秀樹しかり、である。最近は科学があたかも科学単独で進んできたかのような間違った認識の人が多い。理工学部の学生にはまさかそんなことはないと思っていたが、新卒の技術者と話してみると、その間違いを常識のように語るのにはびっくりしてしまう。科学史の本を1冊読めば、済むことだが、それに適した書物というのも案外少ないものだ。
この『夜の物理学』は、科学エッセイであって、科学史の本ではないが、科学とは何か、を考えるのに最適な本である。
歴史本だと、ギリシア時代から始まってルネサンス期になるともうたいくつで仕方がない。しかし、本書は最新科学の成果から始まっている。特に宇宙論は、科学の得意不得意に関わらず興味があるはずだ。それもやさしい表現で科学ビギナーにも理解しやすく書かれている。次はもっと詳しい宇宙論を読みたいと思うにちがいない。
そして、「異端説」の章は、本書のメインディッシュである。科学はすべて異端論から始まり、その中から定説が生まれてくるのである。それも有名な学者がかつては(今も?)異説を唱えていたとは、驚愕の事実である。この事実がわからないと大学で科学を学んでも身に付いたことにならない。だって、初めから定説があるのならば、21世紀に研究者の居る意義などないではないか。
また、第III章では「科学者だって人間だもの」と題して科学者の人間的側面が記されている。科学だけやっている科学者などいない。喜怒哀楽は、私たちとかわらない。生身の科学者を知ることができる。
真の科学がもっと人々の間に流布するよう、専門馬鹿ではなく社会に貢献できる科学者が増えるよう、本書を推薦する次第である。