トルーマン・カポーティというと、日本では「ティファニーで朝食を」、しかも映画の「ティファニー…」の「原作者」という知名度なのだが、どうしてどうして映画の「ティファニー…」のテイストとは似ても似つかぬ作風、似つかぬながらも極めて多様な才能の持ち主なのである。
米国ではカポーティというとベストセラー「冷血」の作者、というのも通り相場のようであるが、本書に収録されている短編の数々は、そんな「冷血」や「ティファニー…」(もちろん映画でもテキストでも)とはひと味もふた味も違った作品ばかりである。
O・ヘンリ賞受賞作品の「ミリアム」に始まり、本書のタイトル作品「夜の樹」、村上春樹の絶賛する「無頭の鷹」といった幻想的な「ゴシックロマン」と、「銀の壜」「誕生日の子供たち」といった何処かからやってきたストレンジャーを巡る寓話的と言っていい作品、そして抒情的な「感謝祭のお客」…。
いずれも「これぞカポーティ」という典型的な作品といってよく、かつ「これだけではカポーティは語り尽くせない」と言わざるを得ない。
この多様な作品群の中で唯一共通しているのは、何処かバランスを欠いた不安定な「空気」である。
意図的にそんな「空気」を前面に押し出している作品もあれば、巧みなストーリーテリングで覆い隠されながらもその隙間から「空気」がにじみ出てくる作品もある。
いずれにせよその「空気」はカポーティの持ち味で、「ティファニー…」や「冷血」にも共通する。
そんな「空気」の共通性と各作品の多様性。
本書を通してその両方を満喫できる。
日本で出版されているカポーティの中で1冊を選べと言われれば、僕は本書を推す。■