8編からなる、お捨と笑兵衛の界隈に住む人々にまつわる人情話です。
1巻目で泉鏡花文学賞をとり、この4巻目で吉川英治文学賞と再び賞をとったのですが、それだけのことがあり、物語の最後のほうの思わぬ展開に、心をかなり揺さぶられた話がいくつかありました。特に印象深かったのが以下の作品です。
「いのち」
ある出来事に苦しむ人たちに、お捨の言葉が、立ち上がるきっかけをつくります。これほど言葉がいきた物語があっただろうかと思うくらい、結末は本当に見事な話の流れでした。
「ぐず」
気にはなっていても心の奥底にしまっていたことに、ある事がきっかけとなり、やっと行動を起こした女の人の話です。ほろりとさせられる結末で、15年という年月の重さが、最後の文章によく表れていて、希望ある未来の扉を開けたような終わり方で、最終話にふさわしかったです。
他に、「奈落の底」も、長年にわたり凝り固まっていた人の気持ちをほぐした、いい話でした。
文庫本の解説に、この木戸番夫婦のことを、「積極的に手を差し伸べたり、アドバイスをするわけではないが、二人との何気ない会話を通して、自分の進むべき道を切り開いていく」と書かれていましたが、本書の「いのち」は特にそれを感じる作品で、かなり強い印象を残しました。そしてこの解説も、小説の素晴らしさを実に上手く説明していました。