アレナスの恐るべき自伝を映画化した、それだけで賞賛に値すると思います。ただし、ないものねだりを承知のうえ、原作と比較して2,3気がついたことを以下に書きます。
まず、アレナスがハバナへ上京する場面。カメオ出演のショーン・ペンをもっと観たかったのは別にして、極貧出のアレナスがカストロ主導の革命に熱狂して身を投じ、のちに革命政府のお陰で高等教育を受けるにいたったことには触れられていません。つまり、革命がなかったら作家アレナスは生まれていなかったかもしれない。信じた革命政府による弾圧というのが重要です。
つぎに、原作の主題ともいえる自由なキューバ的性愛生活、愚かなほどに若い男たちと昼夜問わず「めくるめく冒険」をしまくる部分の描きこみが稀薄です。まるで魔術的リアリズムと思えるほどですから。
そして一番残念だったのは、死を賭して渡った自由の国アメリカでの、アレナスの想像を絶する絶望がほとんど描かれていないこと。「何でも金次第の、魂のない国」が彼の自殺をはやめたとさえいえるくらいで、原作を読んでもっとも苦しかったのがこの部分でした。
と、いろいろあげつらいましたが、ハビエル・バルデムの鬼気迫る演技は絶賛に値しますし(アメナバル監督作品などでも証明済みでしょう)、映像の美しさや展開のスピード感など、躊躇なく傑作といえる作品だと思います。また、DVDのパッケージデザインや付録小冊子も非常に良いです。