ゲイである事、不埒な作家であること、
反革命的であること・・。
何れも許される事がない国、キューバ。
迫害故にそこから亡命し、
エイズの病苦からNYで自死した流浪の作家、
レイナルド・アレナス。
これは彼の死の直前の自伝だ。
この驚くべきエネルギーに満ちた小説
(そう呼んで差し支えない)を書き上げた
時点で、アレナスは深くエイズに身体を
侵されている。
男たち、彼らとのセックス、弾圧、投獄、亡命。
口述と筆記から書かれた本書は、
全体が混沌とした描写と錯綜した記憶の断片で
埋め尽くされている。
日付も無く、時系列もあまり意識されていない。
自らも体験したであろう、世界を動かした
歴史的事件にも、触れない。
そもそも、事実なのかどうかさえ疑わしい
事柄も数多く記述され、
島田雅彦が推薦文で語るように、
世界は古代人の言葉で埋め尽くされる。
アレナスは病に打ちのめされた体で、
怒り、絶望し、呪い、耐え難い望郷と郷愁と
呪詛を同時に叫んでいる。
あまりにも死期を意識しすぎたか、
かれの天性の才である、うねり、ほとばしる
言葉のリズムが、ここでは崩れがちだ。
だが、それによってこの本が陰惨なものに
なる事はない。
嘆きではなく、描写そのものに発狂寸前とも
言うべきユーモアが満ちているからだ。
結果として、驚くべき事にこれは正統的な
ピカレスク小説としても存在し得ている
(古代叙事詩!)。
カリブの赤い島、そこから逃げ出した1人の
ホモが生んだ奇跡。
小説としての純然たる達成度は
かれの他の著作に譲るだろう。
だが、間違いなく、「夜になるまえに」は
アレナスの最高傑作のひとつである。