著者自身は「初の官能小説」と自虐的に紹介しているが、本質は外務省キャリアのカネと女をめぐる不正の糾弾にある。ときに権威を振りかざしながら、ときにせこく、欲望に向かって突進するエリート外交官の悪事(と間抜けぶり)の知られざるディテールがこれでもかと書き込まれている。あっという間に読了した。
「国家の罠」に始まる一連の佐藤作品が評価されるのは、単なる政敵の糾弾にとどまらず、敵たちの悪事の描写を通じて、人間の本質を冷徹に見つめようとする視点があるからだと思う。モスクワ大使館の幹部職員の妻が、新たに赴任した大使館職員の妻があいさつする際に「黒いハンドバックの中から白い手袋の先を2〜3センチのぞかさねばならない」という、一般人には理解不能なプロトコルを要求するシーンが描かれているが、これを読んで「人間とは何か」と考えこんでしまった。
相変わらず、佐藤自身は「冷静な判断力をもち、欲望に左右されない無敵のヒーロー」として描かれている。ただ、それを差し引いても、外務省キャリアの悪事に関する豊富なディテールは読むに値する。
佐藤優にとって、外務省の不正を真正面から採り上げることはある意味宿願だったろう。しかし、なぜこの時期に出版したのか。深い意味があるのかもしれない。