無駄な表現を用いずに読者のイマジネーションを想起して物語に幅や深み与える技巧がある6つの短編小説でした。各物語の私の所感は以下の通りです。
1.夕映え天使・・・幸福になれない因果を背負った中年の男女のピュアで物悲しい物語
2.切符・・・両親と離れて祖父と暮す少年と彼の回りの人々の悲哀、そして、少年の自立を戦後の区切りとなる東京オリンピックの時代風景に合わせて描いた深みのある物語
3.特別な日・・・SF的エッセンスを交えたモーレツサラリーマンの人生の振り返りと現状認識の物語
4.琥珀・・・妻に去られ定年を迎える孤独な中年警官の悲哀と新たな旅立ちの物語
5.丘の上の白い家・・・ミステリ仕立てで哀しい人の運めの綾を描いた物語
6.樹海の人・・・三島、自衛隊、小説、訓練中の樹海で見た男、について描かれた20歳の頃の自伝的小説
蛇足ですが、樹海での自衛隊の訓練で20歳の浅田次郎はカポーティの「ティファニーで朝食を」の原書を持ちこみますが、そのカポーティは三島からお前は自殺する口だと言われことをその著書に記しています。そしてその三島の自死が小説家希望の浅田青年を自衛隊に入隊せしめたという縁に奇妙なシンクロニシティを感じました。