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10 人中、10人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
他生の縁か,
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レビュー対象商品: 夕子ちゃんの近道 (単行本)
フラココ屋という、センスが今ひとつの名前の古道具屋が舞台だ。そこの二階にふらっと居候のようなアルバイトのような青年?が登場する。実はこの人物、視点人物のくせに年齢も家族関係もはっきり描かれない。どんないきさつでここに間借りするようになったのか、最後まで不明だ。そしてそのことを、少しずつ知り合う近隣のだれも気にしない。気になっているのかもしれないが、誰も尋ねない。瑞枝さんなんか、かなり経つまで名前すら知らないままで「君」と呼んですませている。 「僕」は、店の奥ののれんの陰に隠れるように、ちょっと非日常に逃げ込んでみたようなのだ。その希薄でしがらみの少ない人間関係ゆえに、かえって離婚の悩みや思わぬ妊娠を相談されたりするのだ。 だが、非日常はやがて日常へと変貌する。初めて見たフランスのアパルトマンの中庭が、次の日には昨日も見たおなじみの光景になっていくように。だからそれでいい。つながった関係に執着する必要はないが、無理に振り払うこともない。 主語の省略された文が、自然な自分の思いのように忍び込んでくる。
4 人中、4人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
不思議なズレに酔いましょう,
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レビュー対象商品: 夕子ちゃんの近道 (講談社文庫) (文庫)
三十歳を超えて仕事が嫌になって骨董屋に転がり込んだ主人公が、周囲の人たちとゆるやかに、しかし着実に親しくなるほのぼのほんわか物語。ドロップアウトした苦悩があるわけでもなく、主人公の恋愛があるわけでもないのに妙に心地よいのは、しがらみを離れてなお幸福に生きるモラトリアムの極地だからでしょう。第一回大江健三郎賞受賞作品だけに、最後に御大の選評が掲載されています。そこで指摘されているとおり、心地よさの何割かは主人公の名前や出自(つまり何者か)が最後まで明かされないことにあるのですが、基本的に内面を語る小説にもかかわらず、「私」とか「僕」といった主格が極端に少ない。というかほとんどない。主人公だけでなく周囲の人も明確な人格らしきものを持たないようで、会うたびに少しずつズレている。そのくせ細かいところは妙にリアルで、ヤクルトとか貴闘力とかの使い方は絶妙です。長嶋さんうまいなぁ。 ほんの数年前の原作なのですが、昨年来の不況によって、この作品を支えている日本経済の底力(主人公はお金に困っているわけではなくて気持ち次第で仕事を辞めたり転居したりするし、最後は登場人物みんながパリに行くだけの経済力)が破綻してしまった今、モラトリアムのお気軽さと自由の心地よさに酔ってしまう危険な小説にもなっているのでは。一読を。
8 人中、7人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
長嶋有の描く関係性は、いつだって、とってもいいなぁと思えるのだ,
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レビュー対象商品: 夕子ちゃんの近道 (単行本)
終章に「皆、目的はばらばらだ。いつもなにかが我々をゆるく束ねている」という言葉がある。ゆるく束ねているのは、家族でも学校でも会社でもなく、フラココ屋という古道具屋だ。フラココ屋に住み込みバイトで半年を過ごした主人公は、こう回想する。「すぐそばに皆がいて楽しかった気がするけど、ほとんどの時間、一人だった。別に一人でよかった」。こういう関係性がこの小説の魅力になっている。親子とか夫婦とか同僚とか、そういった付与的で半永続的な関係性が、この小説からは丁寧に省かれている。いわゆるフラココ屋を中心としたご近所付き合いなんだけど、そこは都会の良さで、地縁とか因習とか面倒なしがらみは一切ない。そうした“ゆるく束ねている”関係性は小説の書き方にも表れている。ふつうの小説は語り部である主人公がご丁寧にも自分の来歴や内面などを語ってくれちゃったりする訳だけど、この小説では、最後まで主人公のはっきりした年齢も、生まれ育ちも、名前すらも語られない。実はこの主人公は存在していないんじゃないかと、そういうオチなんじゃないかと途中思わせるほど、小説の定石を外している。ところが、主人公が自らを語らなければ語らないほど、周囲の人々から照射して、主人公の存在感が浮き立つのである。この自らの語り方、周りの人々の描き方こそが、心地よい関係性の方法論でもあるような気がする。一見、昔のホームドラマのようでありながら、そのユルさの質はあきらかに違う。まぁ、登場人物が古道具屋、イラストレーター、美大生、コミケ少女ってことで、なかなか、今の世知辛い実利社会には適用出来ない関係性ではあると思うけど。かといって、ユートピアとしてではなく、可能性として捉えてみたい関係性ではある。長嶋有の描く関係性は、いつだって想定外でミスマッチで、それでいて身近で肩の力が思いっきり抜けていて、とってもいいなぁと思えるのだ。
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