読む必要はない。読むだけ無駄である。ほとんど、著者の間違い探しをするために読んだようなものだった。真面目な人柄なのだろうけれど、基本的な伝記的知識が欠落しているし、テキスト論者もびっくりするような読みが提示されている。以下に箇条書きにしてみる。
・「塩原昌之助は、……、同じ名主仲間として夏目家とはかねてより親交があったのであろう」(P.23)。塩原はもともと、夏目家の書生である。「親交があったのであろう」という程度ではない。
・『猫』について、「山会へ持ちこまれた漱石の原稿は、虚子の巧みな朗読によって読み始められた」(P.114)。少なくとも、『猫』の第一回原稿を朗読したのは、虚子ではなく寒川鼠骨である。
・『坊ちゃん』は、「明治の学園青春小説の傑作に仕上がったのであった」(P.145)。そりゃ斬新な説である。
・『虞美人草』は、「人間の社会には道徳があることに由って、始めて社会は成立している」という「極めて高度の主題に沿って展開する」(P.171)。仮にそうだとして、どうしてそれが「極めて高度の主題」なのだ。
そもそも、どういう読者層を狙って何千部刷ろうと思ったのか、編集部の意図も不明である。文庫化する必要があったのだろうか。