まじないで姿を消された我が子を取り戻すために、他人の子供にかけられた親の願いを奪う物語だ。二人の母親が名乗り出て、裁判官役の男の前で子供をひっぱりあうという昔話がある。子供が泣き出して、可哀想に思い手を離した女が本物の母親だというモラリスティックなオチだったように記憶する。池上永一のラストはこんななまやさしいものではなかった。なのに読後のこの美しい余韻は何なのだろう。とんでもない人物ばかりが登場する。子供をとりあげるたびに、出鱈目なまじないを掛け、さっさと死んでしまう産婆。世界記録を目指しているのに、フライングを直せないアスリート。妄想癖で仲間をひきずりまわす小学生。何がおきようとも、彼らは決して後悔はしないのだ。だから美しいのだろう。けっこう笑える小説でもある。