「あの日」について、その場にいて、その目で見た者が自ら惨禍を綴った物語。そのすぐ後に原爆が落ちると後から思い出せば、その日の身の回りのことも、あるいはそれ以前の出来事も悲しみも何故か意味ありげになり、そして激しいその瞬間を生きのびた後は、何もない。ただ透明な虚無に沈み、この世を去るばかりである。遺書のように添えられた詩は、悲しいなどという次元ではない。船に乗り海外へ行く遠藤周作を見送るときには、自分自身がその船に乗っているかのような離人感にとらわれる。すでにこのときに彼の精神は危なかったのかもしれない。
この本で原民喜を知ったら今度は原爆ドームに行って欲しい。そこに彼の文を記した石碑がある。佇んで見守って欲しい。気がつけば昨今の国際的騒動のなんと愚かしいことか。そういうことを考え、平和について思いを巡らせる手がかりとして、この本を強く推薦する。