十五年前に家を出て行き、顔も覚えていない親父が死んだらしい。
親父は、ぼく(礼司)と「姉」、それぞれにゴクラクトリバネアゲハという
珍しい蝶の標本を遺したそうなのだが、自分に「姉」がいたとは初耳だ。
しかも、その標本を預かってくれていたのは、義理の妹だそうで……。
「姉」を捜し求めていくことを通じて、それまで知らなかった
父の人生の軌跡を辿り、おのれのルーツに向き合う物語。
父が、ぼくと姉に蝶を遺した意図や、姉は今どこにいて、何をしているか
といったことが謎の焦点となりますが、ミステリ的仕掛けはありません。
人物造形や舞台設定、散りばめられたモチーフなども、
他の樋口作品との類似性が多く、目新しいものはないです。
しかし、著者に殊更な新奇さなどは必要ないのです。
今、この瞬間に目の前を通り過ぎていく青春という時間を静謐に、時に熱く
見つめる主人公の内省的な視線こそ、永遠に古びないものなのですから。