フランツ・カフカの『変身』を映画化した作品。
TSUTAYAの透明なケースの表記が『コメディ』になっていて吹いた。何故コメディ。ブラック・ユーモアですか。間違いか?
それはさておき。
“あの”『変身』を現実に書きとめるなど、随分と無謀なことのようにも思えた。
“蟲”は、グレゴール役を演じるエブゲーニイ・ミローノフが熱演――いや、狂演と言ってもいい。それほどまでに鬼気せまり、蟲さながらの躍動感とでもいおうか、強烈な印象を残す。とくに、グレゴールが一番最初に食べ物を食する場面、あそこが「まさに蟲だ」とうならせるほどの演技である。
この作品は、役者が“蟲”を演じているがために、時折「グレゴール・ザムザは朝起きると蟲になっていた」などの注訳がはいるけれども、小説を読んでいなければ理解しづらい場面が多々ある。
不条理そのものの世界観であることを観客は気づかねばならない。
映像美や雰囲気からすべてが素敵だと思ったけれども、ただひとつ残念なことがある。劇中、中盤から終盤にかけて雇われる意地悪い年老いた手伝いがいるけれども、劇中では随分と若く感ぜられる俳優さんを起用している。もっとお年を召した御方であれば、もっと臨場感にあふれたのではないか、と思う。彼女の意地悪っぷりには目を見張るものがあったけれども。
注意:全編ロシア語で、字幕オンリィです。
※“変身”に於いて、フランツ・カフカは出版の際、版元のクルト・ヴォルフ社への手紙に「昆虫そのものを描いてはいけない」と申し出ていたというから、俳優本人が蟲を演じるのはそれに通ずるともいえる。劇中の序盤で蟲が描かれたイメージが提示されるのだが、個人的には初版の「人間と暗いドア」が描かれたものも付随していたらもっと良かったと思う。既に蟲であることがあたりまえとしてはびこっているけれども。
フランツ・カフカについて語ったインタヴューや『変身』についての概要などといった、特典がなかったことも残念である。ガス・ヴァン・カントがリメイクした『サイコ(1998)』では、ヒッチコックが監督を務めたオリジナルの『サイコ』について語っていた特典がたっぷりと詰め込まれていたので、余計に残念。(しかも映画化はこれで三度目である)