『変身』という小説は80ページほどの中篇である。
ある朝、主人公である青年グレゴールがベッドの上で目覚めるとなぜか毒虫になっている。非現実的で実に異様な設定だが、読み進めてゆくうちにそのこっけいさがとても心苦しくなってくる。
毒虫になったグレゴールは、家族や社会と今までのようにかかわることが出来なくなる。その心の葛藤や苛立ち、それでも周囲を思いやろうとする様子などが克明に、きわめて即物的に書き込まれてゆく。
心理・情景描写が執拗で、嫌というほど哀れさが伝わってくる。
なぜ毒虫になったのかということは一切書かれないし、さらに主人公でさえもそれに疑問を持つ場面がない。物語はグレゴールが毒虫になったという事実よりも、毒虫として社会や家族と断絶したことの方に重点がおかれて描かれる。
この異様さから、この作品が単に奇妙なだけの童話のごとき物語ではなく、人間社会の重大な現実を描き出していることに気づかされる。
国境の隔てや宗教の問題に干渉されず、これは人間世界におけるある種の普遍性を付与された物語だといえる。解説にも書かれているが、カフカが生きた時代や背景をイメージしながら読むと、より深くこの作品を味わうことができると思う。