作者のデビュー短編集である。連城三紀彦氏と言うと"花"を連想させる叙情的作家と思われがちだが、本作では趣向を凝らした本格ミステリで読者に挑んでいる。それもその筈、作者自身の言に依ると、ミステリを書き始めたキッカケは、父君の「ミステリはどれを読んでも犯人がすぐにわかってしまうので退屈だ」という言葉に啓発された由。本作の収録作は以下の通り。「変調二人羽織」、「ある東京の扉」、「六花の印」、「メビウスの環」、「依子の日記」。
タイトル作は、ある落語家の怪死事件を、現役の刑事が引退した若い刑事に語って聞かせるという形で話が進む。読者は、その語りの中で青年と共に事件の真相に迫っていく訳だが、実はその語りそのものに仕掛けがあるという凝った作品。そして、最後のページで描かれる鶴の姿に真相は読者から遠のいてしまう...。
「ある東京の扉」は売れない作家が売り込みのため、編集者の前で自作の構想を語って聞かせるという話だが、最後に待っているオチが楽しい。
「六花の印」は現在の犯罪を描いて、その推理者が祖父の過去の犯罪を改めて胸に刻むと言う、その後の叙情性を予感させる作品。
「メビウスの環」は夫婦間の愛憎を描いて、真相を追って行くと、読んでいる方も"メビウスの環"に陥ってしまいそうな佳品。
「依子の日記」は日記形式を用いた、いわゆる叙述トリックものなのだが、これも情緒性に溢れ読む者に新鮮さを与える。
冒頭に述べたような経緯でミステリを書き始めた作者だが、本作に対する父君の評価を聞く間を天は与えなかったようである。しかし、"新しいミステリ"を書こうとする意欲が結実した見事な短編集だと思う。