昨年、そのユニークな講義がたいへん評判になったハーバード大のサンデル教授に向かって、
"米国人は知らないだろうから、日本人がほんとうの「正義」を教えてやろう"
という、まあ、高山氏ファンには毎度おなじみではあるが、なかなか刺激的なタイトルである。
地震や災害の発生時には一時的に警察力が及ばす街が無秩序状態になることがある。そういうとき世界の人々のとる行動は決まっていて、それは「略奪」である。しかし日本人は略奪をしない。商人も混乱に乗じてむやみに価格を釣りあげたりはしない。それが日本人の「正義」だからだ。サンデル教授の「正義」は、機会があればすぐに略奪を働いたり、台風のあとに屋根の修理代金が50倍になるような国の人たちを前提にしている。そういう問いはアメリカ人には有効かもしれないが、そもそも日本人には無効なのだ。と、だいたいこんな趣旨だ。
道徳なり正義なりは、比較的狭い社会の中で集団の秩序を維持するために有効な概念で、戦争や紛争が発生しうる大きな集団間の関係にはたいして役に立たない。正義はあらかじめそこにあるものではなく、結果論もしくは勝者の言い訳、といってもいい。その意味では『サンデルの頭にこうした日本的な正義はない。商売は阿漕に、金持ちは命を惜しむ。それをなんとか正義で包みた(p208)』くて正義を語るのだ、という高山氏の読み方はわかりやすかった。
週刊新潮のコラム「変見自在」を2009年12月から2010年12月まで一年分49本を収録したもので、基本的には時事ネタなので、メディアリテラシ(=新聞、テレビ報道の読み方)を鍛えるという意味では、ほんとうは週刊誌を毎週読んだよい。単行本もできればもう少し早めに出してもらえるとありがたい。