ひどく変わった味がする短篇小説のアンソロジー。グロテスクな愛、型破りの愛、一方的な愛、奇想天外な愛などなど、普通の「恋愛」小説とはひと味もふた味も違う「変愛」小説がずらり、並んでいます。
アリ・スミスの「五月」を冒頭に、レイ・ヴクサヴィッチの「僕らが天王星に着くころ」「セーター」、ジュリア・スラヴィン「まる呑み」、ジェームズ・ソルター「最後の夜」、イアン・フレイジャー「お母さん攻略法」、A・M・ホームズ「リアル・ドール」、モーリーン・F・マクヒュー「獣」、スコット・スナイダー「ブルー・ヨーデル」、ニコルソン・ベイカー「柿右衛門の器」、ジュディ・バドニッツ「母たちの島」を収録。「僕らが天王星に着くころ」を除いて、すべて、『群像』誌上に初出・掲載された短篇小説。
なかでもバツグンに風変わりで、変てこな話の奇妙な味に引き込まれたのが、「五月」「リアル・ドール」「母たちの島」の三篇。木に恋した人と、その人を気遣う人と。ふたりの無償の愛が美しく描かれた「五月」。妹のバービー人形とつきあってる僕の変態性活を、生き生きと、コミカルに綴っていく「リアル・ドール」。父親たちのいない島で育てられた女の子たち。未知なる男どもへの不安と期待が高まっていくなかで、話が急展開し、とんでもない所に着地する「母たちの島」。
こんな面白くて、読みごたえのある海外短篇のアンソロジーを読んだのは、小野寺 健・編訳の『20世紀イギリス短篇選(上・下)』(岩波文庫)以来。強烈な読後感は、どこか異国の料理店で、知られざる特別料理を堪能した気分に似ているかも。
岸本さんの融通無碍、達意の訳文が素晴らしかったです。