上巻に引き続き、下巻では絶対王政の時代から、現代までを扱って行きます。もう完全に欧米史となっていますが、上巻に比べてより精密でより掘り下げられた内容とであると言っていいでしょう。著者の一人が看護学の専門家であるだけあって、保健・衛生学的方向からの視点がより顕著で、寧ろ、薄く広くであった上巻はあくまで序であり下巻の方こそ著者らの関心の焦点があるのではないかと思うほど、読み進めれば読み進めるほどその記述は興味深く、その論旨は明確になって行くのです。
性というものは、ともすれば忌避されがちで、まじめに取り組むのは恥ずかしいものです。そこで人は有無を言わずに峻拒するか、おどけて滑稽さを装って直視することを避けてしまう。そこで発生するものは無軌道な性の氾濫か、臭いものに蓋的な禁止、統制という囲い込み。共に売春という古来変わらぬ営みに見て見ぬ振りを貫こうという点、変わりません。著者らが憤りを持って語るのは、こんな安易な解決方法の一番の犠牲になるのは、大概に於いて一番弱い者たちであり、うまみを握るのは常に買い手であり、うまく立ち回る力のあるという事。よって「大人が合意の上で行う性行為を、金銭の授受のあるなしにかかわらず合法と認める」ことによって、売春を賤業から外し、売春婦たちの離職可能性を確保して、強制売春や小児売春を取り締まっていくべきだと説きます。一見自由性交賛美のようで、お堅い方々からは眉をひそめられそうな提言ですが、私はこの見解は適切だと思います。私の知る限り、大体の場合、世の規範の一番効果的な破壊者はその規範の提唱者であって、清く正しい生活を維持していくために、汚く穢れた世界を積極的に維持して来たのです。健全な社会のために売春という職業が如何に縁の下の力持ちとして活躍してきたかを知れば、社会への新たな視点を得ることもできるのではないでしょうか。