精緻かつ乾いた文体で奇想天外なホラ話を悠然と綴るカーシュの代表的短編集。単なるホラ話を歪んだユーモアで包んで文学的領域にまで押し上げる所が作者の手腕か。
冒頭の「豚の島の女王」は容易に乱歩の「芋虫」、「孤島の鬼」を想起させるが、乱歩の猟奇的描写が不思議と嫌らしさを感じさせないのとは対照的に、こちらは粘着質の強い嫌悪感をタップリ味あわせてくれる。タイトル作の「壜の中の手記」はA.ビアスの失踪という大事件を扱い、偶然にビアスが最後に残した手記を読むというもの。骨格は「注文の多い料理店」と同じなのでオチの予想は簡単だが、お膳立ての周到さに圧倒される。「ブライトンの怪物」は日本人の力士、空手家、レスラーが出て来てオヤオヤと思うが、更に原爆との組み合わせで話を繋げる奇想に驚く。「破滅の種子」は生体実験の怖さをねじれたユーモアで包んで描いた佳作。「時計収集家の王」は題名通りの時計収集狂の王(歳で他にする事が無い)と時計屋との残酷な交流を描いて秀抜。王の哀感とプロットの巧さが融合して、個人的には一番の好み。
途方もない奇想をねじれたユーモアで包んで描いた傑作短編集。