「非攻・兼愛」の信条に則って「万人に対する愛」を説き、争いのない世界を理想とする『墨家』。
それだけならただの理想家たちの話で終わるのですが、本作の一種異様な魅力は、
墨家を思想団体としては異色の、理想のために戦う「傭兵集団」として描いたことにあります。
思想家と言うよりも技術者の集まりのような印象、
自衛のために敵を殺し、城を守るために時には市民でさえも処罰し犠牲にする冷酷さ、
戦争の技術を日々磨き上げ、多くの場合無償で、率先して陣頭に立つという異様さ。
人を守るために人を殺す姿は、現代にも通じる矛盾ですが、
この理想と現実のギャップが本作を貫くテーマであり、他に替え難い魅力となっています。
また、作中に登場する防御法は実際に墨家が用いたものですが、
その巧妙さは物語の中でも存分に発揮され、息をつかせぬ話の展開を彩ります。
墨家の抱える矛盾を現代に置き換え、深く考えるも良し。
作中に繰り広げられる2000年前の戦術を純粋に楽しむも良し。
150ページに満たない分量で、読み手を圧倒する勢いがあります。
意外な幕切れまで一気に読み通せる「一大」短編小説、
歴史小説や軍記ものが好きな方には特にお薦めです。