全部で4章のうち、第1章が著者の略歴で原子力発電に対する立場など(全部で18ページ)、第2章が放射線とは何か(89ページ)、第3章が放射線の人体への影響(31ページ)、第4章が食品の放射線汚染への対処の仕方(50ページ)です。その他、巻末に資料が12ページあります。家族で語るの書名の通り、中学生でも理解できる(と思われる)易しい説明です。この本は1986年のチェルノブイリ事故の不安に答えるために書かれたものの増補改訂版です。
著者の言う通り「科学的にこわがる」ためには、放射線とは何かをちゃんと知らないとなりません。必要以上に恐れてはいけないし、恐れるべきことを軽視してもいけません。ですが、専門家向きの本は高度な物理や数学の知識を前提にしていますから一般の人には取っ付きにくい。かと言って一般向きに書かれた本の中には、書いた本人が理解していないのではないかと思われるような初歩的な間違いや大切なことの書き落としがあります。この本の第2章は易しい説明でありながら科学的に正確で押さえるべき要点をしっかり押さえてあります。
放射能の単位のベクレル、照射線量の(旧)単位のレントゲン、吸収線量のグレイ、線量等量のシーベルトの意味は何か、きちんと誰にでも分かりやすい(と思われる)説明をしています。ベクレルは崩壊(壊変)の数であって、放射される放射線の数を意味しないことなど、意外と間違って理解している人もいるのではないでしょうか。また、逆二乗則が点光源に対してしか成り立たないことを述べているのは、一部の本やテレビの発言に誤解した説明(作家の広瀬隆さんなど)があるからでしょうか。一般の人が誤解しやすいところを先回りして説明してあります。大学の中にずっといた先生にはなかなかそういう説明は出来ません。著者が一般市民の質問に答えてきたからだと思います。
第3章で健康への影響を述べていますが、結論は浴びないに越したことはないです。要するに、ここまでは安全だという「閾値」がないということです。私は生物学や医学を良く知りませんが、今まで読んだ本の多くも閾値はないという立場でした。学会等でどういう評価をされているか知りませんが、閾値があるという説もある(あった)そうです。驚いたのは、年間50ミリシーベルトという制限がありますが、その制限の下で現実には5ミリシーベルト程度しか被曝していない例から決められたそうです。こういう数字の裏を知るのは大切と思います。
第4章が食品汚染です。チェルノブイリ後の輸入食品の暫定基準の計算の前提を載せています。さまざまな仮定、不確定要素が入っていることが分かります。食品の放射能の測定方法を簡単に記述しているのは良いと思います。知らずに食品を計ろうとしてG-M計数管(ガイガーカウンタ)を購入する人さえいます。厚生省が輸入させなかった食品の汚染量を公表していることについて、著者は「輸入が許可された食品の汚染状況をこそ私たちは知る必要がある」と述べていますが、全くそのとおりと思います。その後、放射能濃度と放射線のエネルギーと半減期と食べた量と食べた人の体重から被曝量を求める公式を載せ、その結果を使いスパゲティやお茶など実際の場合の摂取量を仮定して計算例を示しています。食べて良い悪いの判断は読者がすることになります。なお、一部旧単位のレム(rem)を使っている部分があります。1レム=10ミリシーベルト、1ミリレム=10マイクロシーベルトです。
この本を高木仁三郎さんと渡辺美紀子さんの『食卓に上がった放射能』と検討される方も多いと思います。どちらもチェルノブイリ後に国内で輸入食品に不安が高まったときに初版が書かれたものです。食品汚染の資料集としては高木さんらの本が詳しく、放射線の基礎的な説明はこちらが優ると感じました。高木さんらの本が原子力発電反対の立場が鮮明なのに対し、この本は科学的な説明に徹しています。なお、著者は反対の立場で、おそらくそのために昇進できず、「万年助手、東大を去る」と新聞に書かれたそうです(p18)。両方買っても良いし、放射線の一般向きの説明には、この本の代わりに5月31日に増補改訂版が出る野口邦和さんの『放射能のはなし』にしても良いと思います。一般向きで科学的な本として3冊とも良書です。