NHK・BSに「心の旅」というシリーズがあった。偶々眼にしたものは、少年時代を内モンゴルの日本人居住地域で送った初老の作家の物語である。彼は、中国化されて、共産党の政治スローガンの掲げられた集落や、微かに記憶のある草原を歩き、父母と過ごした戦前の日々を回顧する。そして、最後にクライマックスが訪れる。二度と会えないと思っていた幼き日のモンゴルの友人が現れるのである。思わず、あふれ出る涙。涙。抱き合う二人。「日本は二度と侵略しない」と誓って、番組は終わる。これまでの例から言えば、この「友人」は党が選抜した優秀な演技者・証言者である。外国メディアに対する常套手段である以上、NHKの担当ディレクターが知らなかったことはありえない。むしろ、担当者は演出に必要な作家の個人情報を流している。こうした作為まで、「日中友好」だと考えている可能性がある。
「内モンゴル」「ウイグル」「チベット」。中国共産党に解放された喜びの表情。熱烈な毛沢東万歳。中国に取り込まれ、便宜を与えられた平山郁夫が描いた、少数民族世界に於ける貴族たちの奴隷虐待とそれを解放する健康で清潔な八路軍兵士たち。
だが、国共内戦、人民公社化運動、反右派闘争、文化大革命の間に中国全土に起きたことが、「内モンゴル」や「ウィグル」「チベット」で起きなかったとしたら、それはまことに奇妙なことだ。しかも、内モンゴルはかつて日本が勢力圏にしていた地域であり、日本語教育によって高度に知的なモンゴル人たちが住んでいたところなのだ。
楊海英氏は、「内モンゴル」に起きた文化大革命における漢民族のモンゴル人大虐殺の記録を掘り起こす。氏は、「まだ、平静にはなれないのだ」と断りつつ、内モンゴルに起きた事件の数々と数万人の死者の記憶を、あふれ出る涙を抑えつつ、抑制された声で語り伝えようとする。