直木賞受賞作品が「赤目四十八瀧心中未遂」であることはAmazonで知ったが、本作品集で十分に車谷ワールドを堪能できるのでは、と想像する。
「この作品で必ず芥川賞が受賞できる」
このように確信して書き上げた作品がすべて収納されているからだ。
「塩壷の匙」を渾身の力で成し遂げたというのに、結果は落選。作者は精神状態まで狂ってしまったくらいだという。
ビジネス系の人生指南書のノウ天気さに比べ、どうして小説ってどれも重く暗く悪徳なんだ? 親鸞の悪人正機説「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」をつぶやかざるを得ない。その真骨頂が本書といえよう。
車谷のこだわった私小説だが、太宰治を読んだときのような脳髄の痺れる錯角は生じなかった。それは車谷の「私小説」には甘味がなかったからだろう。ひたすら自分の地盤を掘り続け、出てくるのは胞子臭い土だけで、たまに奇態な地虫が姿を現すだけ。
しかし、それがむしょうに読みたくなる年齢というものがある、ひたひたと背後に迫ってくる破局の日に備えて。
「このごろハムだらソーセージたら言うもんが出来とうやろ、人間ほどむごいもんはあらへん、牛でも鶏でもあないなもんにしてしもて、平気で喰うて行くんやが。(「塩壷の匙」)」
私も全くそう感じているのだが、やっぱりおいしくいただいてしまうのである。本書も、まだ残されている平和な日常で堪能させてもらった。