第1歌集『水葬物語』(1951年)から第24歌集『約翰傳僞書』(2001年)までの全歌集および未刊歌集、歌集未収録歌から、代表歌約1200首を子息塚本青史氏が選んだアンソロジーです。塚本さんの歌業のエッセンスを味読することができます。
さらに、塚本邦雄のエッセーと、塚本、故寺山修司とともに前衛ご三家と称された岡井隆さんの塚本三回忌の会での講演のことば、現代を代表する歌人坂井修一、加藤治郎、藤原龍一郎の三氏による鼎談が収録されています。
作品の中で気に入ったもの
固有名詞物
・過剩暖房 ガウンの胸をはだけつつ聞くブルース・スプリングスティーン
・冬瓜(とうぐわん)のあつものぬるし畫面にはどろりとシルヴェスタ・スタローン
・ダリを父として大雪の魚市の箱に睡魔のごとき海鼠ら
・熱き湯に佇(た)ちておもへばランボーの死のきはに斷ち切られたる脚
獨活(うど)物
・イェルサレムに蘇りたる人の名を知らず。われらに晩餐の獨活
・獨活のごとさびしき裸體きしみあふ少年感化院の沐浴
・裂かれし獨活のごとくわれ立つ 寫眞展、キャパの〈倒れる兵士〉の眞下
戦争物
・死者なれば君等は若くいつの日も重裝の汗したたる兵士
・原子爆彈官許製造工場主母堂推薦附避妊藥
・海底に夜ごとしづかに溶けゐつつあらむ。航空母艦も火夫も
グロテスク物
・獻血のわが血は碧、人間にわかつなど滅相もござらぬ
・不運續く隣家がこよひ窓あけて眞緋なまなまと耀(て)る雛の段
・醫師は安樂死を語れども逆光の自轉車屋の宙吊の自轉車
・義齒(いれば)光らせ老婆ら眞夏夕ぐれの鹵簿(ろぼ)待つ ほかに待つものなくて
少女物
・驛長愕くなかれ睦月の無蓋貨車處女ひしめきはこばるるとも
・ラガー驅け去るその瞬間の風壓にひらとあやふし白芥子少女
・處刑さるるごとき姿に髮あらふ少女、明らかにつづく戰後は
・少女死するまで炎天の繩跳びのみづからの圓驅けぬけられぬ
動物物
・日本脱出したし皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係も
・父はむかしたれの少年、浴室に伏して海驢(あしか)のごと耳洗ふ
・新緑の獸園を發つ速達便、「騏麟に變(な)つた逢ひに來てくれ」