繁華街でもない街の片隅にある、店の看板もない酒場。普通じゃ絶対に入りがたいオーラが漂う。なぜ、古びた「場末」の店に男は向かうのか。そんな疑問から本書は始まる。むくつけき男たちが集う何もない酒場で軽く店主、女将と語らいつつつも、野球中継を聞きつつ、一人痛飲する。これぞ「男の桃源郷」と著者はいう。
高度成長の過程で工場街、住宅街、赤線として発達し衰退した、あるいは再開発できず、そのまま時流に置いて行かれ、場末化していった酒場たち。城東地区を中心に、雑色、赤羽などかつての工場街にある場末酒場に本書は訪れる。過剰な修飾を排し、店の内外に見える景色や音、主人とのあっさりした会話を淡々とつづる原稿から、カウンターに小上がり、コップ酒をさっと呑んで帰る常連客…昭和テイストに満ちた情景が浮かび上がる。
最終章で場末酒場でのたたずまいをガイドするが、ガイド本ではない。コミュニケーションツールに使える!とか、こんな情報が満載…みたいな実益において本書が役に立つ場面はない。むしろなくていい。日常と隔絶した孤独を愉しむのだから。人生のピークを越え、道を下っていそう人たちが店で心を癒し合う姿は味わい深い。新書でもやけに「すぐに役立つ」「プラス思考」「人生改善」…俗悪ビジネス本ばかりが流行る時代だが、そんな本よりこんな本をゆったり読む方が心の健康にいい。