内容紹介
『暮しの手帖』編集長、松浦弥太郎の自伝的エッセイ50編。
18歳の秋、初めてサンフランシスコを旅した時、僕は何を求めていたのか。
「どうして旅に出たいの?」両親の疑問に、少年が言えなかった答えは……
人生の旅人たちに贈る珠玉の一冊。
【ちょっと立ち読み】
しばらく外国に行くと告げると、母は「あら、そう」とそっけなく答えた。外国がどこの国で、どこの町に行くかとは聞かなかった。来週早々に出発すると言うと、「あら、そう」と同じようにつぶやいた。
それきりだった。僕と母は仲が悪いわけではないが、親密かというとそうでもなかった。
幼い頃から両親は共働きだったため、早いうちから精神的に自立していた僕は、何かを決めることで両親に相談したことは一度もなかった。 決めたことは、いつも事後報告か、その寸前に知らせるのが普通だった。
ニューヨークではじめて過ごした冬は、何十年かぶりの大雪が降り、毎日が零下の寒さだった。
携帯電話など無い時代だったから、泊まっているホテルの住所と電話番号だけは母に伝えていた。
頼まれてそうしたのではなく、せめてそのくらいはしておかないと思ったからだ。
正直いうと、そんなことで旅の不安を少しでも和らげたかったのかもしれない。
日本を離れて二カ月経ったある日の午後、僕は風邪を引いてしまい部屋で寝込んでいると、ドアをノックする音がした。開けるとホテルの従業員が「電話がかかっている」と教えてくれた。
部屋に電話がないため、外からの電話はすべてフロントを通す。ギシギシを音をたてながら動くおんぼろエレベーターで下へ降りて、フロントの受話器を取った。電話をかけてきたのは母だった……
(「母のこと」より抜粋)
内容(「BOOK」データベースより)
『暮しの手帖』編集長、松浦弥太郎の自伝的エッセイ50編。18歳の秋、初めてサンフランシスコを旅した時、僕は何を求めていたのか。「どうして旅に出たいの?」両親の疑問に、少年が言えなかった答えは。人生の旅人たちに贈る珠玉の一冊。